猫にもなれば虎にもなる。

院生による本格分析(をめざす)ブログ。ねこちゃんにも寅くんにもなれるような柔軟な姿勢。

『猫丈記』~その四.「はじめてうちの猫がゴロゴロ言ったときのおはなし」

 

 それは突然だった。私をみて「まるくん」は、母猫にそうするようにゴロゴロゴロゴロとないた。

 

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――さかのぼること4日前。世界一可愛い猫がうちにやってきた日。いうなれば、一日目。建てられたばかりのケージに入った「まるくん」は、とても居づらそうな端におびえたような表情で座っていた。彼がもともと使っていた毛布も一緒にいれたのに見向きもしない。後ろ重心のかかった姿勢で、小さなトラはこちらを威嚇しているようだった。

 

 二日目。ストレスが溜まっては困るからと、なるべく「まるくん」がいる部屋(ここの先住民は私だったわけだが、)には長居しないようにした。寝るときなど「おやすみ」とできるだけ優しく声をかける。目を合わせたり、過度に近づかないようにしたりした。彼はわたしのいない間にケージの一番高いところにいるようになった。夜鳴きがすごくて寂しがっているような鳴き声が聞こえるので、夜は胸が苦しかった。

 

 三日目。部屋のケージの離れたところでしばらく読書をした。気が付けば鼻歌をうたってしまっていたが、「まるくん」は嫌がらなかった。エサをケージに入れるときも、前日までと違って警戒した様子をみせなかった。調子に乗った私は、ちょっと「まるくん」に声をかけた。すると、眠そうにしていた「まるくん」の表情が一変。顔をこわばらせて「シャー」とないた。申し訳ないことをしたと反省。この日も夜鳴きはひどく、ちいさな彼の不安や寂しさが伝わった気がした。

 

 四日目、午前。「まるくん」初の大きい方のトイレ。猫の大きい方のトイレの匂いはこんな感じなのかと学習。うん、くさいけど、なんだか愛おしい。ケージを開けて掃除をする。「まるくん」はその様子を上からチラチラ見ていた。緊張しながらも、ちゃんときれいにできた。そっと、ケージを閉めた。学習してるぞ。もう余計な声掛けはしない。そのあと、最初の検診の予約のため、動物病院にお電話。電話の私の声に反応して上から「にゃん」と聞こえた。

 

 四日目、午後。昼ご飯を食べた後、読書をしに自分の部屋にいく。そして、その突然はやってきた。本棚で本を選んでいた時。聞いたことないこえが聞こえてきた。ゴロゴロゴロゴロ…。一番上の段で仰向けにごろっと転がってゴロゴロ言いながらこちらにアピールをしている。おもわず「どうしたの?」とたずねる。ゴロゴロゴロゴロ…。まるい手がこちらを手招いていた。もしかして。できるだけ柔らかな動きでビビられないようにせる気持ちをおさえて部屋の扉をしめ、さらにケージの扉をあける。待ってましたというように「まるくん」が上段から飛び降りてきた。私の手をめがけてすりすりとでこをすりつけている。そうか、本で見たマーキングか。一通り終われば、ゴロンとおなかを見せてくる。はじめてのなでなで。緊張したけど、猫が好きだという耳の後ろやあごの下を撫でた。ゴロゴロゴロゴロ…。

 

 その日から、「まるくん」は私を母親の様にみているように見えた。遊びを要求し、トイレの処理を要求し、甘えたいときは寄ってきて、苦手なはずの抱っこもさせてくれた。夜鳴きも少なくなった。したとしても、私の声を聴けばすぐに止んだ。たった4日。されど4日。あんなに警戒していた小さなトラが、私を信頼してくれた子猫になった。気遣いが報われたみたいですごくうれしく、かけがえのない美しい経験だった。そんなことを経験させてくれるのが、猫との生活なんだ。ちょっとした昔ばなし…。