猫にもなれば虎にもなる。

院生による本格分析(をめざす)ブログ。ねこちゃんにも寅くんにもなれるような柔軟な姿勢。

「ペンと知恵の輪」 第一回 北の国の路上に咲く向日葵

 この場を借りて、音楽やら文学やらについて色々語らせてもらいます。不惑と申します。よろしくお願いします。第一回ということで、まずは最も敬愛する歌うたいの話から……。

 


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 「札幌で一番好きな場所は?」と質問されると、いつも少しだけ迷う。大学の一階にあった喫煙所もタバコを吸いながら見る吹雪の様子が最高で大好きだった。二条市場のすぐそばにあった牡蠣が馬鹿みたいに安い店も冬になると前の道がツルツルで何度もこけたけど大好きだった。中島公園の道立文学館には高橋揆一郎の原稿を何度も見に行くくらい好きな場所だし(文学好きとしてはいつも空いているのが寂しかったけど)、その帰りにススキノで多分100食くらい食べた山岡家なんて、好きとかではもはやない。サービス券はいつもなくしていたけど。

 

 でもやっぱり、帰る場所、故郷っていうのは一つに決まるらしい。それが狸小路の一番奥の灯りの色が違うアーケードへの入り口の横にある、M'Sスペースっていう小さなビルの二階にある、ワルツという小さなお店。なんて素敵な名前でしょう、ワルツ。

 小さな、と書いたけど、正直大きさについて正確に言い表せる自信がない。だって、毎回馬鹿みたいに酔っ払っていて途中から記憶をなくすか、今日の話の主人公であり、ここの店の主人?マスター?歌うたい?吟遊詩人?シンガーソングライター?クレイジーホース=ジェロニモ?である、JERRY"KOJI"CHESTNUTS、通称コージさんという存在《ザイン》が作りだす、なんともいえない雰囲気に酔っ払っているか、どっちかだったから。どっちにしろ酔っ払っているじゃないか、というのはおいといて。

 

 今回取り上げる「ひまわり」は、コージさんがTBHRから出した7inchに収録されていて、今ではストリーミングでも聴ける。生まれてから30年ほど経っていたけど、どこにも収録されていなかった伝説の曲。僕はもうこのタイトルに、コージさんの魅力がほとんど現れていると思う。

 「彼女はひまわり」という、レトリックとしては少し古典的(オールド・スクール)なフレーズのあとに、「ひまわりになりたい」というリフレインが続く。このリフレインによって、レトリックは蘇る。なんとも暖かいひまわりに、コージさんは何の恥じらいもなく、ひまわりに抱く生(エロース)の欲望を歌い上げてしまう。彼女はひまわり、そして、ひまわりになりたい。これが愛(エロース)そのものじゃなくてなんなのだろう。

 

 ただ、最後にちょっとだけ自慢させて欲しい。吹雪の中ワルツを訪れると、ちょっと猫背のコージさんがちょいちょいちょい、と言いながらビールを注いでくれる。そう、僕はもうコージさんが札幌に咲く「ひまわり」であることをその身をもって知っている。どうだ、いいだろう(笑)。札幌のひまわりは、"暑い"中咲くんじゃない。咲いてから周りを"暖かく"してくれるのだ。もちろん暖かさが、寒いからこそ際立つというのは、書かないでもみんなわかるはず。

 札幌に咲いたひまわりは、あのビルの階段を上がったドアをあけると、最高に美味いお酒とうたを僕にくれるかな。あー、帰りたい。

 

 

                               Written by 不惑