猫にもなれば虎にもなる。

院生による本格分析(をめざす)ブログ。ねこちゃんにも寅くんにもなれるような柔軟な姿勢。

【東海オンエア・リーダー】「てつや」、YouTube界の“ピクトグラム”【後編】

【※このブログには前編があります※】

 

caaatteey-0815.hatenablog.com

 

 

二分法への挑戦と新メディアとしての「YouTube」の親和性

忘れないのは童心、実行力は大人!

 東海オンエアといえば、動画の企画力の高さで知られるが、その原点にあるのが、てつやがよくいう「子供たちがやってみたいけどできないことをやる」というモットーだと思う。東海オンエア的な企画には根底に「童心」がある。その「童心」を、大人の実行力がくわわるからこそ面白い動画が量産されているのだろう。

 

 その「童心」の中心にいるのが、てつやの発想力だ。例えば、「電気ビリビリのヤバい玉を割ったらどうなってしまうのか!?」*1という動画はその企画自体、「このガラスを割ったらどうなるんだろう」という「童心」からきているが、この動画の概要欄には編集担当のてつやのコメントとして以下のようなことが書いてある。

 

大人になるという事は、したかったことが出来るようになると同時に、今までできていたことができなくなるんですね。早く大人になりたいと思っていた時期が俺にもありました。でも、どの区画から、どのタイミングから大人になるのかたまに考える事があります。お金を稼げるようになったら大人?親元を離れ力を借りずとも生きていくのが大人?俺にはわからん

 

世間一般から言われる大人には慣れてるかわかりませんが、俺は大人なんです。大人であると同時に、子供なんだと思います。何書いてるかわからんくなってきた。とりあえずコナンの映画みてね。

 

 

 「大人であると同時に子供なんだと思います」という一文は、彼や彼らの企画の源泉になっている言葉であり、大人/子供という二分法に対するてつやの懐疑的な姿勢がみえる。てつやは私生活と動画の中の自分が密着して不可分なように、大人である自分と「童心」の保持をしている自分を不可分だと考えているようだ。また、「てつや王」*2では、じぶんの好きなところについて問われ、「バカと天才の両立」と述べており、ここでも、二分法への懐疑的な姿勢がみられる。大人的な常識の枠にとらわれすぎず、子供のころみたかったものを自力で実行する姿は、「しがらみ」が似合わない「YouTube」という媒体自体の姿勢に同期している。

 

 

 もちろん、このような姿勢は非常に「危うい」。たとえば、「【合法痴漢】鈍感男に気づかれずに何回ボディタッチできる?」(現在、非公開)での炎上は記憶にあたらしい。メンバーのなかでも鈍感だというしばゆーに対し、何回ボディタッチができるのかという内容だったが、性犯罪を軽視したなどと批判にさらされた。冒頭のトークでは「痴漢はしてはいけない」というように配慮はしていたと思うが、確かに現在の「常識」ではアウトだったのかもしれない。ただ、以前にも「【女性閲覧禁止】法に触れずに「パンチラ」を撮りたいんだ!!」*3という類似した動画をメンバーのゆめまるを被写体として行っており、こちらは、高評価が5.4万(低評価1500ほど)なのでいかにぎりぎりを攻めているかがわかるだろう。 この「危うさ」も、「YouTuber」のパブリックイメージにあっているのかもしれない。やはりてつやは、「YouTube」の象徴性を保有しているのか。

 

 また、童心を実行するための大人の実行力のなかでも彼の珍妙なほどの「器用さ」は初期のころから動画に一役買っていた。特に彼の器用さは、「絵」*4 と「編集」に特化されており、それは童心を刺激するような企画につながっている。例えば、友達の描く絵を予想できるかという趣旨の企画(=「【Oh!!My God!!!!!】メンバーが描く絵を予想して描いたら名作が誕生した。」)では、絵の上手なてつやが、ほかの3人(しばゆー、としみつ、りょう)の絵のタッチを想像し、また絵の下手なりょうを目立たせ動画の面白さにつながっていった。

 

 

 また、編集においても「東海オンエア節」をつくったのはてつやであるのだが(後述)、童心のある企画にストイックな割に不潔であることをたびたび指摘されている(セフレ関係が動画でたびたび言及される、歯磨きを全然しないことを明かされる、同じような服やぼさぼさ髪で動画に登場するなど…)。できる/できないの二分法が崩壊しているところもてつやの「YouTuber」的な魅力の一つとなっているといえるだろう。

 

 

コント×YouTube

 「童心」を忘れない、という面でもうひとつおそらく、彼らが小学生ごろまでテレビのバラエティで主流だった「コント」も東海オンエアでは多くみられる。特に秀逸なのは、「【初投稿】youtube界のニューヒーロー!セラヤTV!豪華3本立て!!!」という動画だ。

 

 

  てつやととしみつが、新人YouTuber「セラヤTV」の消しゴムともっこり坂井に扮して、動画を作ろうとするが、企画がうまくいかずにやらせを行うというコント動画である。すでにYouTube歴が長く、秀逸な動画を多く作っているにもかかわらず、たどたどしい話し方雑なやらせ(ヒッチハイクがうまくいかない新幹線を車に見立てる、ナンパがうまくいかずおねえさんを呼ぶなど)を編集でごまかそうとするという内容があまりにもシュールで皮肉的でおもしろい。特にシュールさは、コントがテレビと違って、動画を再生した瞬間に始まってエンディングがなるまでは、東海オンエア感がまるでないところだ。

 

 おなじことは、としみつが扮した「逆田蝉丸(46)」。虫の死骸をひっくり返す仕事をしているという逆田を、『プロフェッショナル 仕事の流儀』のようなテロップ、ナレーションで編集し、パロディコント。こちらも、いきなりはじまり、突然、東海オンエアの2017年夏を振り返るという構成になっている。いきなりはじまって、いきなり東海オンエアの「夏の終わり」を振り返り終わるという構成は、非常に「シュール」である。

 

 

 

  子供のころにみたであろうコント文化に、YouTubeという媒体の特性(いきなりはじまりいきなりおわれる)を合体させた「シュール」な構成は、日本の笑いの文化の新旧の境を解け合わせ、再び二分法を否定していく。てつやの二分法への挑戦が、あたらしい「笑い」に昇華され反映されている例だといえるだろう。

 

 

“中心になる”のではなく、“中心たれ”!~リーダーとはなんたるか

編集・フォント・CGのレトロ感

 東海オンエア的編集の源流はてつやにあり、らしい。「東海オンエアの編集担当、同じシーンに「同じテロップ」入れられるはず!」の冒頭では、6人全員編集ができ、役割分担ができているという事実が伝えられたあと虫眼鏡はさらに以下のように説明している。

 

元はやっぱりてつやの編集なんですよ。てつやの編集を真似して僕たちは動画をあげているんですけど…

 

 さらにテロップには、「東海オンエアっぽい=てつやの編集に似てる」とあり、それをうけて企画は「「てつやと同じ白テロップ」をいれることができるか検査」になり、最終的に「東海オンエアの正解=てつや」という結論に至る

 

 

 

  この動画でてつやは、「テロップは簡潔に」「小道具も活かすべし」「(SEの)「バーン」はマジ必須」「(SEの)ボムは一回まで」「不確実な情報は入れない」「見てわかることしか言っちゃダメ」「動画の中の人とテンションの高さを合わせるべし」「出演者のボケをそれとなく説明すべし」…など極意を語っているが、面白おかしいテンションの中でもてつやが編集に対してどれほどのこだわりをもっているのかについて非常に興味深い動画になっている*5そのこだわりが強いので東海オンエアの動画は、彼らの周辺の環境が変わっても、題材にお金がかかるようになっても、照明が明るくなっても、どこか初期のころから一貫した「色」や「レトロ」感がある。その「色」をつくりだしているのは、「てつや」なのだろう。

 

 また、この動画の概要欄に虫眼鏡が「YouTube界隈では「東海オンエアのテロップがダサい」というのは有名な話なんだってばよ。フォントも色も読みにくいってばよ。」とあるが、初期のころといまの動画ではフォントがほとんど変わっていないのは有名な話であろう。進化やクォリティの高さという右肩上がりのベクトルだけではなく、あえて「変わらない」という左に平行なベクトルを残しておくことで、視聴者との距離感を図っているともいえるかもしれない。

 

 この傾向は、CGにもみられる。たとえば、「【完全再現】これなんのアニメの最終回でしょうクイズ!!!」では、てつやが十数時間かけてCGを製作したらしいが、ガサガサの映像(背景との切れ目の荒さ、背景のいらすとや感、空間の位置関係のちょっとした不正確さなど)とほどよい「荒さ」に笑ってしまう。この「荒さ」で笑いを生み出せるのが、老舗YouTuberのなかではもはや東海オンエア(てつや)ならではの「色」ではないかと思う。

 

 

彼ならば、外注などしてもっと高レベルのもので問題をつくることが可能だっただろうに、(途中映像で挿入されているように)苦労して小さなグリーンバックから動画を製作し、キャラ名でアニメがばれないようにすべての「てつや」が使われているのもシュールな神回だ。*6

 

 以上の様に、てつやの「こだわり」や「色」によって東海オンエア「らしさ」が保たれていることがわかる。そのため、彼らのエンタメは、過度に変わらず過度にマンネリにならずというバランスを保ちながら多くの人に愛されているのだろう。

 

 

 

中心地は「岡崎」、中心は「てつや」 

 前編で書いたようにてつやは動画のスタイルとの関連でその拠点を「岡崎」から移していない。いやここまでみれば、東海オンエアは「こだわり」や「色」に「岡崎」は不可欠といえるのかもしれない。もちろん、岡崎を中心に据えた動画もあるが、それ以外にも地方ならではで実現可能なネタ(【知識0】超本格ピザを食べたい…窯から手作りだ!*7)や、流行りものからの独特の距離の取り方により、物理的中心地、東京(あるいは渋谷、新宿、原宿?)の流行りものに過度に流されないマイペースさがあり、ちょっと懐かしい元ネタが動画になることもある。(ほぼ)最新動画の「パネル獲得=罰ゲーム回避クイズ!マソップ25!(前編)」は、老舗クイズ番組ア〇ック25がもとになっている。

 

 

 “東海オンエアのエンタメ”の中心地はやはり「岡崎」なのだ。この他者比をしない感じが、昔、YouTuberがよく標語にしていた「好きなことで、生きていく」を自然と象徴している。

 

 

 同じことは、「東海オンエア」のリーダーとしてのてつやの姿勢に似ている。てつやはアバンティーズのリーダーそらちぃとの対談で以下のような発言をしている。

 

僕らは「国旗」なんですよ。国をまとめるとなったら頭のいい総理大臣だったり、○○大臣が必要なんですけど、僕らはあくまでも象徴的な存在としてはためくだけ!(笑)〔中略〕「我らここにあり!」ってね(笑)。国旗がチャカチャカとパソコンをいじっていたら大変なことになっちゃいますからね。「僕はここにいるよ!」って、それだけでいい。ちゃんといるよって見せるためだけの存在――つまりバカです(笑)。

――「僕らは「国旗」、風に揺られてはためくだけ。そらちぃ×てつやのリーダー論」*8より

 

 

  東海オンエアはそれぞれがとても個性を強く持つメンバーの集まりだ。そのバラバラさを生かすためには、能動的に引っ張るという行動(運動)よりも、このグループはこんな感じなのだという象徴性の方が必要だということだろう。国旗という形容は、象徴として「中心」にありながらも、そこに「ただ自分らしくあること」(=「色」を失わないこと)が重要なのだという点について非常に鋭い。

 

 

まとめ:YouTube界の「ピクトグラム

 2019年、日本のYouTube視聴実態の調査を行った佐々木裕一は、「YouTubeで見たり聞いたりする動画内容」について、以下のように述べている。

 

 最も多くのものが視聴しているのは、「音楽・ミュージックビデオ(PVやMV)」であった。選択肢の中最も数値的に大きかったのが「よく見たり聞いたりする」(40.9%)であり、「ために」を加えると79.5%に上った。これはた項目に比べて圧倒的な数値であった。「よく」と「たまに」の合計値でこれに続いたのが「バラエティ・コメディ」(59.4%)と「画面を見ずに音だけを聞くための動画(ラジオ・音楽を含む)」(55.2%)であった。

 ――佐々木裕一「スマートフォンでのYouTube視聴実態 : アーキテクチャに着目した基礎的分析」より*9

 

 ここで、一番見ているとされている「音楽・ミュージックビデオ(PVやMV)」は、主にプロの歌手あるいはニコ動由来の「歌い手」文化から人気を博していた、「既出の有名人」も多く、おそらく多くの人がこのような動画だけを投稿している人を「YouTuber」と認識しているひとは少ないのではないだろうか。比べて、次点である「バラエティ・コメディ」には、おそらく多くの人が「YouTuber」だと認識するヒカキンやはじめしゃちょー、フィッシャーズなどが含まれるであろう。「東海オンエア」もこの中に入ると思われる。YouTubeの中でよく「見られている」もののなかでも、YouTuberを象徴する分野に東海オンエアは属しているのだと思われる。

 

 さらに、NHKにおいて2019年に放映された『デジタル・タトゥー』のキャラ造形がある。瀬戸康史演じる20代の人気ユーチューバーが、ネットの活動名が「タイガ」(名前だけ、本名は伊藤大輔)、髪色は目立つ青髪、服装はビビットで派手な色使いなのだ。この造形を始めてみたとき、すぐに思いついたのが、「てつや」だった。

 

 生活=(日常=)YouTubeの密着度、動画内容のYouTubeにおける象徴性、編集とフォントの手作り感、派手な見た目…。これらは、世間がよくイメージする「YouTuber」そのものではないだろうか。逆に言おう、「てつや」をみれば、(たとえ、彼をしらなかったとしても)おそらく多くの人が「YouTuber」ではないかと推論できるのはないか。その意味で、もはや、てつやは東海オンエアの「象徴」を超えている。「てつや」は日本YouTube界の「ピクトグラムだ。

 

――――――――――――――――――――

 

 ということで、尊敬するYouTuberのてつやさんについて書いてきましたがどうでしたでしょうか。かれは、まだ20代ながら残してきた作品と功績が多く、見直して整理して分析して…というのが非常に大変でした。しかも、一つ一つ動画が面白いので、一度見たはずなのにまた全部みてしまうなんてこともあって、なかなか書き進められませんでした笑。

 ちなみに、この原稿を書く前の日の夜。「てつやさんて~だよなぁ…」と考え動画を見ていると、面白く思考が進んでしまって本当に眠れなくなりました。しかも起きたときほとんど忘れているという…すごいポンコツです。こんな経験はブログを書き始めてから初めてでした。それくらい、脳を刺激する方ですね。すごいです(語彙力)。

 そんなこともありながらも懲りずにいつかまた、東海オンエアの個人論を書かせていただきたいと思いますので、そのときまたお会いしましょう!バイバイ!

 

~エンディング~

 

 

#東海オンエアラジオ

#東海オンエアラジオ

 

 

*1:

*2:

*3:

*4:てつやの描くとしみつの絵は有名↓

*5:水溜りボンドの「大物YouTuberが選ぶ本当にいいサムネイルはどれ?」では、てつやもサムネイルの解説をしているが、このあたりからも東海オンエア「色」=てつやだとわかる。↓

*6:類似動画↓

*7:

*8:

*9:佐々木裕一「スマートフォンでのYouTube視聴実態 : アーキテクチャに着目した基礎的分析」、東京経済大学コミュニケーション学会『コミュニケーション科学』、P98、2019年