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【Taylor Swift- Starlight】~彼女は少女のままおとぎ話を生きる~

 

 テイラー・スウィフトが2012年に発表したアルバム『RED』。そのなかで非常に印象に残った曲がある。「Starlight」だ。同アルバムに収録され、テラハのテーマ曲としてもお馴染みの「We Are Never Ever Getting Back Together」よりも*1、この曲のかわいらしさと切なさに惹かれたのだ。

 

 曲の内部だけを考慮すれば、彼女の初期の代表曲「Love Story」の延長線上にあるのではないかと思った。「Love Story」の“ロミオとジュリエット”には、テイラーなりのハッピーエンドがあり、物語は「閉じられる」のだが、「Starlight」は年月が経ってもおとぎ話は「閉じられず」、年月が経っても「I」(=わたし)はそのなかで生き続けるのだ。本記事では、そのことについて詳しく書いていきたいと思う。

 

《Taylor Swift- Love Story》

 

《Taylor Swift- Starlight》

 

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目次

 

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0.曲の背景

 この曲に登場するBobbyは、ジョン・F・ケネディの弟で、ロバート・フランシス・“ボビー”・ケネディのことらしい。彼は、ボビーの愛称で知られ、妻のエセル・スカケル・ケネディとの間には11人の子供がいた(7男4女)が、兄の死の5年後1968年に暗殺されている*2

 テイラーは、2012年ごろ、ロバート/エセル夫妻の孫にあたるコナー・ケネディと交際しており、さらに彼女のこの曲に関する証言からもケネディ家と近い関係にあったテイラーが「17歳の頃のエセルとボビー・ケネディの写真を見て書いた」というのが背景といえそうだ。証言の一部を引用しておこう。

 

「Starlight」は、17歳の頃のエセルとボビー・ケネディの写真を見て書いたの。1年半ぐらい前にその写真を見たんだけど、一体2人が何をやっていて、どういう状況で撮られたのかは知らなかったんだけど、ただ“2人は最高の夜を過ごしているように見える!”って思ったの。だからどんな夜だったのかを想像しながらこの曲を書いてみた。

――ELLE girl「テイラー・スウィフトの最新アルバム『レッド』をおさらい♪」より

《「Starlight/スターライト」に関するリンク↓》

 

 

 曲の背景にはロバートとエセルの素敵な写真があったのだろが、この曲をこの背景のみに依拠して語るには足りないような気がする。そのあたりの点について次の項より分析していこう。

 

 

1.現在をかたらぬ主人公と人生のハイライト

 この曲に登場するエピソードは(下敷きにロバートとエセルの話があるからということもあるが)、「過去」のものだ。それは、Aメロだけをみてもわかる。

 

〈Aメロ〉

I met Bobby on the boardwalk, summer of '45

(私がボビーと1945年の夏、遊歩道で出会ったの)

Picked me up late one night out the window,

(彼は、ある夜の遅く窓から私を連れだしたわ)

We were 17 and crazy, running wild, wild

(私たちは17歳でどうかしていて、やりたいことをやりたい放題にしてた)

Can't remember what song it was playing when we walked in

(あのとき、流れてたあの曲がどうしても思い出せない)

The night we snuck into a yacht club party

(そう私たちがこっそりヨットクラブのパーティーに入り込んで)

Pretending to be a duchess and a prince

(女公と王子のふりをしていたあの夜のあの曲が)

 

 

 「45」はおそらく1945年のことなので、そのとき17歳だった主人公は、2012年ごろは84歳になっている計算になる。現在から70年近く前の過去ことを語っている曲になるのだ。そして、この曲は、終始「過去」のことだけを語る。

 この「45」(1945年)の夏は、日本人にとっては敗戦の痛みを伴った「つらさ」のニュアンスを含むが、アメリカが舞台のこの曲は、戦争に勝ち(あるいは勝ちが濃厚)になり国際的にアメリカの力が非常に強くなっていった「良き時代」(“Great”)の象徴的な年である。若者の熱狂ぶりはすごく、写真家アルフレッド・アイゼンスタットがタイムズスクエアの前でキスをする男女をとらえた「勝利のキス」という有名な写真はそのシンボルとして知られる。キスをしていた男女は、アメリカの勝利を聞いて喜びのあまり面識がないにも関わらずキスをしたというのだからその熱狂ぶりがわかるだろう。

 

 その時代的な熱狂ぶりがベースとなり、この曲のサビの表現が合わさると、主人公にとって人生のハイライトの輝きが溢れんばかりに伝わってくる。

 

〈サビ〉

And I said, "Oh, my, what a marvelous tune"

(そして私は言ったの「ああ、なんてステキな曲なの」)

It was the best night, never would forget how we moved

(私たち二人がどうして過ごしたか決してわすれられないほどの最高の夜だった)

The whole place was dressed to the nines

(そこにいた人々はみなおめかしして)

And we were dancing, dancing

(わたしたち踊っていたの)

Like we're made of starlight, starlight

(まるで星明りでできているみたいに輝いてたの)

Like we're made of starlight, starlight

(まるで星明りでできているみたいに輝いてたの)

 

 

 ここで特筆すべきなのは、“It was the best night, never would forget how we moved”という表現ではないか。上記の直訳では、「どうして過ごしたか」と書いたが、より直訳すると「どのように動いたのか」になる。まるで、一挙手一投足が明確に記憶されているかのようなニュアンスに感じる。細部までも鮮やかに記憶されるほどの「最高の夜」であり、自分たちが「Starlight」でできているように感じるくらいなのだから人生の「ハイライト」だったのではないかと容易に想像できる。サビの冒頭であり、曲の冒頭でもある“And I said, "Oh, my”のテイラーの息遣いからもその「感動」がいま目の前にあるようなみずみずしさをもって再現されているように感じる。そう、「写真」のように。

 

 

 2.おとぎ話と「impossible dream」

 サビだけではなく、この曲は輝かしい「過去」がおとぎ話のような「素敵さ」を伴ったエピソードでつながっている。二番では、落ち込んだ主人公をBobbyはまるで映画のようなシチュエーションで励ましていく。

 

He said, "Look at you

Worrying so much about things you can't change

(「君はどうにもならないようなことを心配して悩んでいるみたいだね。)

You'll spend your whole life singing the blues

If you keep thinking that way"

(もしそのまま考えていたなら、一生ブルースをうたうような人生になっちゃうよ」って彼が言ったの)

He was trying to skip rocks on the ocean, saying to me

(彼は海に向かって水切りをしようとしながら私に言ったのよ)

"Don't you see the starlight, starlight?

(「あの星たちの輝きをみてみて)

Don't you dream impossible things?"

(不可能なことを夢見てみない?って)

 

 

 一番では夜遅く主人公を連れ出した「彼(=Bobby)」。二番では、海辺で星を見ながら(だからここでも美しい夜であることがわかる)主人公の心配を「キザ」な言葉ではげまし、「不可能なことを夢見てみない?」なんて提案してくる。ちょっとわかりにくいけど、ジェームス・ディーンら往年のハリウッド青春映画にありそうな(特に水切りのしぐさとか)1900年代的ロマンチズムの一場面のような展開だ。

 おそらく、「不可能なことを夢見てみない?」なんていう婉曲的な表現も一緒に不可能と思われるようなことをしようよ(=「ずっと一緒にいよう」とか「僕といたら不可能だと思われる夢が現実になるよ」)みたいなニュアンスがあるんだとおもうし、そもそも「不可能なことを夢見る」ということ自体がロマンチズムに満ちたフレーズである。そうこの時代の「おとぎ話」のようなストーリーが(自分たちの境遇をロミオとジュリエットに仮託した)「Love Story」よりもはるかにリアルに提示されている。

 

 「impossible dream」はのちに触れるように最後の部分に登場するが、この歌では「impossible dream」は「可能になるかもしれないおとぎ話」なのだろう。どんなことでもありえるとおもえるくらい二人は輝きのなかにいたのだろうだから(“Like we're made of starlight, starlight”)。

  

 

3.~彼女は少女のままおとぎ話を生きる~

 

 「Starlight」はラストまで、結局ふたりがどうなったのかわからない。現在の二人もわからない。最後は以下のようになっている。

 

Like we dream impossible dream

(まるでかなわない夢をみているみたいに)

Don’t you see the starlight?

(星明りを見ないの?〈星明りを見るよね〉)

Don’t you dream impossible things?

(不可能なことを夢見ないの?〈かなわないことを夢見ることだってあるよね〉)

  

 

 それは「Love Story」が、『ロミオとジュリエット』の結末をハッピーエンドとして完結させた世界観とは明らかに異なる。

 

"Merry me, Juliet. You'll never have to be alone.

(「僕と結婚してください、ジュリエット。もう君が一人にならなきゃならないことなんてないんだ)

I love you, and that's all I really know.

(君を愛していることだけが僕の唯一の真実だから)

I talked to your dad, go pick out a white dress.

(君のお父さんと話してきたよ。白いドレスも選んできてね。)

It's a love story. Baby just say 'yes'."

(これはラブストーリーだから。君はただ“イエス”といってよ)

 

 

 「Love Story」と「Starlight」両方とも、過去のロマンティックな話を下敷きにした「おとぎ話」だが、その物語の結末があるのか(=「閉じられていない」)という点において大きな違いがある。過去のことしか語らない「I」は、現在でも当時の美しい記憶を抱いて、「おとぎ話」の中を生きている。現実的に、これから「impossible dream」がかなうかどうかは別として、それが「起こるかもしれない」と内包し続ける(=夢を見る)。何歳になったって「乙女心」を持ち続ける主人公の“いじらしさ”が、同性を中心に「キュン」とする結末だ。

 

 年齢を重ねるといろんなことがあるけれど、心のどこかには「乙女心」を―――。そんな女性ならずともだれもが失くないであろう感情のことを、写真から想起してロマンティックに描くテイラー・スウィフトの発想の「かわいらしさ」には一本取られる。「Love Story」では、名作のラストを悲劇からハッピーエンドへ変更する手法をとったが、「Starlight」は、“「おとぎ話」には決着などいらない”という表現の「無さ」で美しい世界観と物語を紡いだ。

 

 彼女の曲には、「物語」が見えてくる。聞こえてくるだけではなく、こんなにも見えてくる世界観を作り出せるのは、その物語をみずみずしく美しくかわいらしい「青春」を感じさせるロマンティックな歌声を持つ彼女だけなのではないだろうかと思うほどに。消えゆくバックミュージックの中で切ないような希望的なような彼女の声が最後に残った。

 

  

 

 

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*1:「Starlight」も、TBS系の女子ゴルフ中継にも使われていた

*2:“Have ten kids and teach them how to dream ”(10人くらいの子供をもうけて、どうやって夢をみるのか教えようよ)という「Starlight」の歌詞に合致している