猫にもなれば虎にもなる。

院生による本格分析(をめざす)ブログ。ねこちゃんにも寅くんにもなれるような柔軟な姿勢。

見えているものは本当なのかーvimeoより

vimeoとは?

 vimeoは、YouTubeのような動画投稿サイトだ。もともとはYouTubeより一年ほどはやく、サービスがはじまったのだが、日本での知名度で言えば圧倒的に劣っていると言わざるをえない。要因はわからないが、YouTubeが見るだけのひとに登録を必ずしも求めないのと違い、vimeoはGoogleなどのアカウントを必要とするというちょっとしたとっかかりにくさや、英語圏の強さが考えられるかもしれない。

  vimeoとYouTubeの違いは、前者がオリジナリティーを尊重し、後者はグレーな部分があるなどと言われることもある。しかし、個人的には、ドラマに強いvimeo(特に洋画好きのひとの琴線には触れると思う)、バラエティーに強いYouTubeという印象だ。

 

  今回はなかでも、たった3分、ほとんど台詞のない作品、「two devices connected」という作品について触れていきたい。

【以下、ネタバレ注意です⚠️】

 

 

 

「two devices connected」の衝撃ー見えているものは本当なのか

  「見えているものは本当なのか」という問いは、サスペンスなどでとりわけ触れられてきた。『ユージュアル・サスペクツ』や『メメント』は、観客に見えている映像の虚像性を暴露した作品だし、とくに『メメント』の監督であるクリストファー・ノーランはこのテーマを映画を通じて問いかけてきた。今回取り上げる作品「two devices connected」は、それを3分でやってのけてしまう。

 

  夜の暗がりの駐車場に一台の車が泊まっている。所有者らしき女性が近づく。暗がりにパンプスの音だけが響く。開始から数十秒でホラー、あるいはサスペンス的な雰囲気が漂う。

  女性が車に乗り込む。カメラは車の外から助手席に切り替わる。若い女性だ。車のエンジンをかけると、車の人工知能の女性の声がする「two devices connected」(2つのデバイスが接続されています)。緊張感のあるBGMが流れ、リアウィンドウ越しに女性が写される。ホラー的なカットの切り替えだ。女性が後ろから誰かに見られているかのような視点のショットを採用してるからだ。 さらに、女性の危機を強調するかのように、いきなり車が遠景に、つまり駐車場にポツンとあることが強調される。

  

  その後、もう一度たしかめ、ギアを握ると女性の手には血が付着する。ただ事ではない。彼女は、指を拭こうとするが、また、「two devices connected」。一台しかないはずのケータイ、二台が接続されているというアナウンス。矛盾がうむ恐怖がつづく。

 

  特に、車=機械が怖い。機械はホラーではよくみられるが、これはおそらく人間に比べて「強い」機械が、人間に「よって」従順であるという前提が壊れる瞬間が恐ろしいからではないか。特に、車は自分が運転している=操作しているものだが、それが崩壊したとき(たとえば、ブレーキが効かない)という瞬間、不可避な拘束状態となるのが恐いのだ。

 

  その恐怖は彼女のクローズアップの焦燥した表情にともる。後ろを振り向いた彼女を映すのはバックミラーだ。これも、ホラー的なカットだ。彼女は何回か後ろを意識しているようだが、視線でも感じているのだろうか。カメラも後ろから撮られるから、「そこ」になにかいるように見えてくる。

 

  事態は進展する。彼女が車を降りるからだ。おどろおどろしい音楽、トランクを開けようとする手のアップ。三浦哲哉(『サスペンス映画史』)がいったようなサスペンス=宙吊り状態の体現のようだ。しかし、その瞬間。トランクからはじめて彼女がカメラから見上げられるショットになるとき、音楽の変調とともに事態は反転する。

 

  トランクのなかには、拘束された男がケータイを必死に動かそうとしている。彼女は蔑んだ目で男をみている。機械から、あるいは、なにものかから拘束されるのではないかと予想された女は、拘束をしている女だった。受動から能動への反転。

 

 このとき、視聴者の緊張は驚愕にかわり、徐々に恐怖になる。女は何者なのか、どうしてそのような状況になったのか。しかし、作品はわれわれを放り投げる。そこで終わってしまうからだ。彼女が男のケータイを取りあげて投げるように。

 

  映像がもとからもつ、ショットやカットという選択。そして、視聴者がもつ先入観の枠。拘束されていたのは我々視聴者もおなじだったということだ。「見えているものは本当か」を実に短い時間で問われる作品だ。映像はもっともらしいウソといわんばかりに…。

 

 

  ※vimeoには、このような面白い作品が詰まっている。登録はちょっとめんどうくさいけれど、その価値はあるとおもう。言語は英語が基本なのもつらいところだが(筆者も英語やリスニングは苦手)、「two devices connected」のようにほとんど台詞がないものもあるので、探ると良作に出会えるかもしれない。