猫にもなれば虎にもなる。

院生による本格分析(をめざす)ブログ。ねこちゃんにも寅くんにもなれるような柔軟な姿勢。

『光のテーブル』、いつかわかる家族の物語

  昨夜、日テレ系で放映された「ザ・発言X~勝負の1日~」で紹介された一冊の絵本。平成の大横綱貴乃花(花田光司氏)作、鉄拳氏が絵という豪華な布陣の『光のテーブル』だ。すでに、多くの感動の声が聞かれるが、この本は、もしかしたら「大人」にはわからない、子供が"いつかわかる"魔法がかけられているのではないかと感じた。

 

  我々、「貴乃花」を知っている大人は、絵本の主人公・カルルに、彼自身を重ねてしまう。無理もない。親子の切ない関係も、かつて戦友だった兄も、国民的英雄の彼自身もあまりにも有名だからだ。だから、勝って名誉を得たカルルが、家族を切望する姿はいやおうにも作者本人にオーバーラップしてしまう。カルルのお母さんの造形はなんとなく藤田紀子を思わせた。彼の全盛期をほとんど知らない、自分でも、切なく感動おぼえたほどだった。

 

  しかし、同時にこの作品自身の持っている力も感じた。それこそ、子供が"いつかわかる"魔法ではなかろうか。子供は作品の外の情報を知らなかったり、理解してなかったりする状態で読むだろう。そのとき、子供の純粋な目には、「シンプル」にうつるだろう。

 

  物語の根幹のひとつは、「諦めずにやりとうせ」という父の教えの実践だ。カルルは大会に何年もかけて努力し、諦めずに家族と再開する。父の教えは、カルルを立派にさせ、家族へと導く教えとなる。おそらく、頑張れば夢は実現するというこのテーマは、子供には読みなれたものとしてすんなり了承されるだろう。

  そしてもうひとつは、「家族」=「日常」が実はかけがえのないという、おそらく誰もがいつか気がつくであろう普遍的なメッセージだろう。子供にとってはまだわからないかも知れない。たいてい、「家族」=「日常」はまだ特別ではなく、へたをすればつまらないと感じることも多いからだ。カルルの葛藤は、子供にとってとても客観的なものとしてとらえられるかもしれない。やがて「大人」なり、一人暮らしのあと、病気を経験したとき、大きな災害に出会ったときなど多くの場面で気がついていくものだ。

 

  そのとき、子供が"いつかわかる"魔法が、花を開く。あの可愛かったカルルのお話が遠い記憶から、「カエル」からだ。そのとき、かつての子供は、作者のことをスマホで調べることになるだろう。そのとき、カルルに隠れた壮大な存在が見えてきて、実感をもったより生々しい、(いま、我々の持っているような感動を)追体験することになるだろう。

 

  そのため、この作品は作者により結び付いたノンフィクションでなく、絵本ではなきゃいけないのだ。いまではなくいつかわかる魔法は、言葉だけでなくかわいらしい絵という視覚情報によって、子供の記憶の底に植え付けることのできる絵本だからこそのものなのだから。

 

 

  ちなみに、 現在、YouTube「鉄拳公式チャンネル」で作者本人の語りと共に絵本を見ることができるので、無料でみることができるので、是非、みてほしい。